『遺産分割』で揉めないためにBy 丸山 主税 / 2024年10月31日 『遺産分割』といえば、相続人の間で揉めるというイメージがありますが、その多くは遺産に不動産があるという場合です。相続財産が現金や預金のみであれば良いですが、土地・建物などの財産があると、その分け方をめぐって相続人同士が対立しやすいのです。では、相続財産に不動産があった場合には、実際どのような分割方法があるのでしょうか。 遺産分割協議の必要性 被相続人が亡くなったら、まず相続人と相続財産の調査を行った後、その相続人全員で財産を誰にどう分けるかを話し合います。この話し合いのことを、遺産分割協議といいます。 相続財産は、相続が開始した時点で、法的には相続人全員で共有している状態になります。被相続人が遺言を残していたのであれば、遺言の内容に従って財産を分ける手続きをすれば済みますが、遺言がない場合には遺産分割協議を行わなければ、財産を特定の相続人の名義にすることはできません。なお、遺言があったとしても、その内容に納得ができないなどの理由がある場合に、相続人全員の合意があれば、遺言内容と違うかたちで遺産分割協議を行うことが可能ですので、覚えておきましょう。不動産を含む遺産分割では、以下の4つの分割方法が多く使われています。 (1)現物分割 現物分割は、遺産そのものを現物で分ける方法です。ケースとして最も多いのは、不動産のほかに財産がある場合に、一つの不動産を一人の相続人が相続し、それ以外の財産をほかの相続人で分ける形です。不動産自体を分割することなく、そのまま相続人が取得できるので、手続きとしては最も簡単といえるでしょう。ただし、相続財産が不動産しかない場合、“それ以外の財産をほかの相続人で分ける”ということができないため、揉める可能性があります。なお、遺産を各相続人の相続分きっかりに分けることが難しく、相続人間の取得格差が大きくなってしまうときは、一部の資産を売却するなどして、その格差を売却代金で調整したり、自己資金で調整(代償分割)したりします。 (2)換価分割 換価分割は、相続財産である不動産を売却し、その売却益を相続人間で分割する方法です。たとえば株券や不動産などの相続財産の、全部あるいは一部を売って現金化し、相続人全員で分けることができます。不動産を相続するメリットがない、もしくは現物分割・代償分割が難しいといった場合などに多く用いられます。残された不動産が子どもの頃から住んでいた自宅であったり、慣れ親しんだ土地であったりするなどの場合、不動産を手放すことに抵抗がある人もいるかもしれません。しかし、現金化すれば平等に分けることができるため、実際にはトラブル回避のために、選ばれることの多い方法です。 (3)代償分割 代償分割は、特定の相続人が不動産などの現物を相続し、その代償として、ほかの相続人に不動産の相続分に値する金銭を渡す方法です。たとえば、相続人が兄弟二人の場合、長男が1億円の価値となる土地建物を相続するとします。その際、被相続人の残した預貯金が5000万円あれば、弟に預貯金5000万円と、不動産の相続分に見合った現金(代償金)を渡します。このケースの場合、相続財産の総額は1.5億円なので、兄が弟に2500万円を渡すことによって一人当たりの相続分を7500万円ずつに配分できます。 なお、代償分割を行う際には、●不動産を相続した側が現金を用意する必要がある●遺産分割協議書を必ず作成し、相続後のトラブル防止に備える以上の2点を忘れないことが大切です。代償分割は、きちんと手続きを行えば基本的に相続税の課税対象にしかなりません。代償金の受け渡しは相続財産の調整として扱われ、相続税の総額は変わらないからです。ただし、そのためには遺産分割協議書内に代償分割に関する記載をしなければならず、そうでない場合は、代償金の支払いが贈与とみなされ、贈与税が課税される恐れがあるため注意が必要です。 (4)共有分割 共有分割は、一つの不動産を相続人同士で共有名義にする方法です。共有と聞くと一見簡単で、トラブルが起きなさそうな方法に思えますが、財産利用の自由度が非常に低く、たとえば、不動産を売却したり賃貸物件にしたりする場合に、名義人全員の同意が必要となり、手間がかかります。さらに、共有者に相続が起こると、ますます共有者が増えて所有権が複雑になる恐れがあります。遺産相続全般において、共有分割はできるだけ避けるべきと言えます。 このように、不動産を相続する際にはさまざまな方法があります。遺産相続で揉めないためには、生前に遺言を残してもらうことが一番ですが、遺産分割協議をすることになるのであれば、しっかりと適切な分割方法を選び、全員が納得する遺産分割になるよう心がけることが大切です。