共有不動産の問題点By 丸山 主税 / 2024年5月31日 自分一人の判断で売却できない不動産 不動産の『共有名義』とは、一つの不動産に対して複数人を所有者として登記を行うことをいいます。主に複数人で出資して不動産を購入するときや、複数の相続人で家や土地を相続するときに共同名義となることがあります。 前者であれば、それぞれの持分や分配に関してあらかじめ決められていることが多いので、さほど問題が大きくなることはないでしょう。しかし、後者の場合は、相続が起きてはじめて、相続財産のなかに共有名義の不動産があることを知るケースが多いため、特に注意が必要です。相続人が複数人いた場合、相続したものが現金であれば複数人で分けるのは容易です。ところが相続したものが土地や建物の場合、それを物理的に分けることはできないため、トラブルに発展することもあります。 共有名義の不動産を相続する場合、共有者同士の関係性や今後の活用方法によっていくつかの対処方法があります。たとえば一人が「不動産の価値が上がっている今のうちに売却しよう!」と思っても、ほかの共有者が同意しない場合には事実上、売却は困難です。「それなら自分の持分だけでも」と売却することは可能ですが、他人と共有しようとする買主は少ないため流通性が低く、仮に買主が見つかったとしても、一般的な相場より安くなることが多いといえます。その不動産に対する自分の持分が2分の1であったとしても、実勢相場の2分の1になることはほぼ期待できないのが実情です。こうした理由からも、複数人で相続した土地や建物を、売却したいと考えるのであれば共有状態を解消することが望ましいといえるでしょう。では、どのような場合であれば、共有状態を解消しやすいのでしょうか。一般的に、相続における不動産の共有には、次の4つのケースが多いといえます。それぞれのケースにあわせた解消方法をみていきましょう。 (1)夫婦(父親と母親)が共有名義の状態 父親が亡くなると、父親の持分が相続対象となり、母親と子どもたちが相続することになります。この場合、母親が父親の持分を単独で相続することで、不動産は母親の単独所有となり、共有状態は解消されます。 (2)父親と子供が共有名義の状態 父親が亡くなると、父親の持分を母親、長男を含むほかの子どもたちが相続することになります。この場合も、父親の持分を長男が単独で相続すれば、不動産は長男の単独所有となり、共有状態は解消されます (3)長男と長女(兄弟姉妹の関係)の共有名義の状態 長男が亡くなると、長男の持分は、長男の相続人である『長男の妻と子どもたち』が相続します。この場合、相続の際には共有状態を解消できないため、相続後、共有者の一人がほかの共有者の持分を買い取る、もしくは共有者の一人にほかの共有者が持分を贈与するなどの方法をとれば、共有状態は解消されます。 また、一番シンプルな方法として、共有者全員で不動産全部を売却する方法もあります。共有名義での保有は、短期的には問題が発生しない場合でも、長期的には問題が起こるリスクは高くなります。それは、たとえば共有者の一人が亡くなった場合、その相続人が持分を相続することになり、共有者の人数が増えていってしまうからです。徐々に共有者間の関係性も希薄となっていくため、共有状態は長引けば長引くほど、解消は困難になるといえます。 (4)もともと(1)~(3)のいずれかの共有名義の状態にあり、 共有者がその持分を競売にかけ、落札されてしまった場合 共有名義人のうちの一人が、不動産の共有部分を担保に銀行から融資を受けていて、返済不能に陥った場合などにも、同じような状態になるおそれがあります。もし、競売にかけられた共有部分が落札されたら、落札した第三者がほかの共有者の持分を買い取ろうと、やや強引に交渉してくる可能性もあります。その場合、ほかの共有者としては、落札者が落札した持分を買い取る、もしくは自分の共有持分を売却するという手段で共有状態を解消します。しかし、買い取る資金が調達できない場合や、落札者が無茶な交渉をしてくる場合などは、持分買い取りを専門とする不動産業者などに相談することが大切です。 各共有者は、いつでも共有物の分割(共有状態の解消)を請求することができます。 共有物の分割について共有者間で話し合いをしてもまとまらない場合などは、その分割を裁判所に請求することができます(民法258条、共有物分割請求訴訟)。この訴訟は、裁判所を通じて共有状態の解消を行う訴訟で、裁判所に適切な分割方法を裁定してもらう手続きとなります。共有財産である不動産を保有し、トラブルなく不動産を分けたいと考えている場合は、迷わず専門家に相談するのがよいでしょう。